元勇者シリーズの2作目(挨拶
小説家になろうで完結済みのオリジナルファンタジー小説。前回紹介した「 異世界で魔王を倒してきた元勇者ですが、こちらに戻ってきても就職口がありませんでした。 」の続編…というよりは別視点にあたる。今作の語り部を務めるのは勇者門脇完爾を召喚したユエミュレム・エリリスタル姫。
国は彼女が生まれる前から徐々に蝕まれていた。
村を襲い街を滅ぼす…国家を侵食する異形の群れをいつしか人々は魔族と呼ぶようになっていた。そのような時代で王の娘として生を受けたのが彼女、 ユエミュレム・エリリスタル姫だ。
幼い頃の姫の耳に入ってきたのは民があげる怨嗟の声。年端もいかない小娘ながら姫は必死に考え、周囲の大人に聞いて回ることにした。
どうすれば民を苦しみから救うことができるのか、魔族とやらを追い払う術はないのか。
大半の大人たちは所詮子供のいう事だと軽んじて根本的な解決策を提示するようなことはなかったが、姫は諦めず会う大人全員に同じ問いを繰り返した。
ようやく役に立ちそうな返答をしてくれたのは王宮に出入りしていたひどく年老いた老婆だった。
ないこともない。しかし、それを成すには相応の代償を支払わねばならぬと。
老婆が言うには「招く術が王家の者には使える。満月の夜に魔剣を携えて神殿に詣でる。これを最低三度以上繰り返すと、幾度目かには異界に通じる門が開き、魔剣が選んだ者が召喚される。ただし、呼び出された者が神か魔神かは知れず。この世に益を齎すか害を齎すかは半々だ」とのことだ。
幼い姫には正しく理解することはできなかったが、重要な部分は聞き取れていた。満月の晩、三度以上、魔剣を携えて、神殿に詣でる。
姫は宝物蔵から魔剣を持ち出し、言われた手順を実行した。そうして呼び出されたのは神でも魔神でもない、ただの少年だった。
こうして召喚されたのが中学校を卒業したばかりだった完爾。この時、ユエミュレム姫は8歳の模様。
さて、完爾は地球では何の力も持たないどころかスポーツすら苦手なごく一般的な中学生だったが、魔剣の力で召喚された彼は死ねない体になっていた。
召喚直後に魔族との初戦闘で姫を庇って喉と胸を貫かれるも死なず、それどころか熟練の戦士以上の体捌きで魔族を叩き切っている。死ねない体にプラスして剣技や魔力など様々なものも取得したらしい。
なろうでよくあるチート的なもののようで、ここから勇者の快進撃!勇者パーティを結成して魔族討伐の旅が始まる!とはならない。
この世界の人間たちは魔族に対してあまりにも弱かった。百人の兵が挑んで一体魔族を討伐できればいい方、と作中で語られていて突出した強さの持ち主もいない。
つまりこの先何が起こるかというと、勇者という一発しかないが無限に発射できる鉄砲玉での魔族討伐戦である。
他の人間は完爾に比べてロクに戦えるものではなく、周りが傷つくのをよしとしない完爾は他の兵を置いて一人で戦っていく。死ねない体と言っても精神はそうじゃない。まして完爾は15歳。
ユエミュレム姫が軍に入った完爾を見送ってから次に会うことになったのは12年後。その時完爾は…
こちらは全12話の中編規模。こちらの最後で前作の最後と交差し、そして三部作の最後へと続く…