タイトル通りとは恐れ入った(挨拶
ハーメルンで連載中のオリジナルホラー小説で、少年誌の某有名ホラー漫画を参考にしながら怪異に立ち向かおうとする、オムニバスホラー漫画世界に転生した男の話。
例えば、赤い夕陽に飲み込まれた公園の遊具に。
午後の日差しが生んだビル影の中に。
目が覚めて見る自室の天井に。
スマホの画面を眺めているその背中に。
日常の隙間に巣食うモノ達がいる。
彷徨える死者の霊魂の具象である幽霊、此処ではない彼方より湧き出た現象たる妖怪、虚無から泡の如く浮き上がり現実を侵蝕する怪異、生者の願いにより生ずる望まれざる存在たる悪魔。
正体不明、 原因不明、 誰ぞ彼と囁かれし者共。
只々乱雑にその存在を示す彼等であるが──その在り方には一つだけ共通する事柄がある。
「────死ぬほど怖えぇって事だよおおおおおおおっほおおおあああああ!!!!!」
S市D町。少子高齢化に蝕まれつつも、かろうじて都市の様相を維持している地方都市。その郊外に位置する森の中を、学生服を着た少年────「間宮 二郷(まみや にごう)」が疾走していた。
滝の様な汗を流し呼吸を荒らげ、オールバックに纏めていた黒髪がみっともなく乱れるのを気にする余裕すらなく、眼の下の濃い隈以外は理知的とも言える容貌を恐怖に染めて、寧ろ更なる加速を試みる。 その様子は正に狂乱。どう見ても無謀な暴走であるが……二郷にはそうせざるを得ない理由が二つあった。
一つは、二郷が背中に背負っているモノの存在。頭が有り、胴が有り、手足が有る────つまり、人間である。性別は女性。少女と呼んで差支えない年頃だ。
少女は黒髪を背の中程まで伸ばしており、纏う黒いセーラー服と相まって今にも夜闇の中に溶けてしまいそうな印象を受ける。対してその肌は死蝋のように青白く……総じて蛍のように儚げであった。
好悪は分かれるであろうが、平時であれば美しいと評されるであろう少女。だが、少なくとも今の彼女を見て美しいと評する人間は皆無であろう。
何故なら、今の少女からは『右の眼球が失われている』から。
幸いな事に、少女は死んではいない。意識こそ失っているものの、荒い呼吸と流れ出る汗が彼女の生存を証明している。けれど、このまま何の治療も施さなければ、その命は長くはないであろう。
「ッ、ゲホッ! ────だあっ! クソクソクソっ! クソったれ! おい! 死ぬなよ!? 絶対死ぬなよ!? 俺がどうにかして『こいつ』から逃がしてやるから!!」
そんな少女を背負って全力で走る二郷の喉はとうの昔に乾き切れ、血が混じった咳が出続けている。しかし、二郷は脚を止める事無く────止める事が出来ず、背中の少女へと激励を飛ばしつつ、視線を少女の更に向こう側へと向ける。
すると、そこには予想通りに……とても残念な事に。
二郷が無謀な疾走を続ける理由の二つ目が居た。
『 る ぼ あ ね ぱ たた ? らう あ を 火ヒ あび ま ぐ 』【顔】がいた。 夜の闇の中に【顔】が浮かんでいた。
これは、とある男の物語。物語の中の「体から塩を生み出す」という能力を持っただけの登場人物に落ちてきた、愚かな男の物語である。
イントロダクションだけを見れば、主人公は勇気を持って怪異に立ち向かっているように見えるがそうではない。この主人公は、既に折れている。
物語の舞台のホラー漫画世界に来る前から、主人公は現実世界でも霊を見ることができていた。
そんな主人公を両親も周りの子供たちも異物として扱い、心が砕けそうになっていたときに出会ったのが「霊能力教師が悪霊から生徒を守るために戦う」というアニメだった。今令和版やってるじゃん!
そこからホラー漫画作品を読むごとに心にヒーローを宿していったわけだが、ある時今まで見てきたどんな霊よりも恐ろしい、本物の怪異に出会ってしまう。
今まで見てきたヒーロー達のように怪異に立ち向かうも、あくまで見ることしかできない主人公がどうにかできるわけもなく、あわや憑り殺される…というところで自分の知っているオムニバスホラーの世界に転生していた。実際に憑り殺されて転生したのかも。
自分が転生したキャラクターも主人公などではなく、「身体から塩を出せる」という能力を持っていたばかりに不運な人生を歩み、挙句に怪異に殺されるという物語上の役割を持っていただけ。
怪異に立ち向かうことがどれほど恐ろしく愚かなことなのかを身に染みて知っても、それでも目の前で死ぬ人を助けようとすることを止められない。何故なら、自分の知っている彼らならそうしただろうから。
だから本当にこの世界の人たちを助けてくれるような「主人公」が登場するまで、ほんの少しだけ頑張ることにした。このオムニバスホラーの世界には「主人公」と呼べる存在がいないことから目を背けて。
でも目の前の人を見捨てられないから立ち向かう…それはまさに主人公の資格じゃないのかな?
そういえば前に紹介した作品でも、効果が薄い清めの塩をドッサリ使って…なんてやってる作品がありましたね。